コラム バレーボール

なぜ龍神NIPPONはこうも強かったのか?

2023年10月16日

先日、自国開催のワールドカップ/パリ五輪予選にて見事にオリンピックの切符をつかみ、最高の形で今年のシーズンを終えた龍神NIPPONことバレーボール男子日本代表。

オリンピック出場は東京五輪から2大会連続、予選を勝ち上がっての自力出場となると2008年の北京五輪以来の快挙でした。

また今年はその他にも30年ぶりのブラジルからの勝利と46年ぶりの主要世界大会メダル獲得という歴史的とも言える結果を出しました。

今年の龍神NIPPONの躍進のカギは何だったのでしょうか。僕としては以下の3つが大きく関わって来ているのではないかと思います。

①石川祐希が「勝たせるリーダー」になった
②宮浦健人の成長
③龍使いのタヌキ、フィリップ・ブラン監督

ではそれぞれについて詳しく書いていきます。

①石川祐希が「勝たせるリーダー」になった

もちろん石川はプレイヤーとしてすでに世界最高の選手のひとりですが、今年はチームを勝利へ導くリーダーとしての成長が大きく見られました。

石川は元々リーダーシップのある人物で、これまでもチームへの声かけをはじめキャプテンとしての努めを全うしてきたと思います。しかし今年はそれに加えて実際にリーダーとして結果を出した経験が上乗せされていました。

その経験というのが昨シーズンのイタリアリーグでチームを史上初のベスト4に導いたことです。

昨季、石川所属するミラノは全体の8位でレギュラーシーズンを終え、プレーオフ初戦の準々決勝の相手はレギュラーシーズン1位のペルージャでした。

昨季のペルージャはレギュラーシーズン無敗の正に最強チーム。ミラノはレギュラーシーズンの2試合でペルージャに1セットすら取れていませんでした。しかもプレーオフで準決勝に進むにはそのペルージャに3勝もしなければいけなかったのです。

案の定、アウェイでの第1戦は0-3のストレート負けでしたが、ホームでの第2戦と第4戦をフルセットのギリギリでなんとか勝ち切ると、アウェイでの第5戦を3-1で勝利してミラノが見事に準決勝進出を決めました。

そのコートの中心にいたのが石川でした。チームキャプテンは別の選手だったのですが、昨シーズンは怪我などでコートを離れることが多く、コートキャプテンの石川が事実上のキャプテンでした。

チームメンバーに積極的に声をかけ、チームを鼓舞し、チームが得点を決めたら喜びを爆発させる。セッターからの信頼も厚く、勝負どころでは前衛後衛に関係なくトスが石川に上がる。コートに立てないときもありました。それでもベンチから積極的にチームをサポートしました。

そして勝った。最強ペルージャに3勝して、ミラノに移籍してから3年、ずっと目標として掲げていたリーグ戦ベスト4にチームを導きました。

この昨シーズンでのイタリアリーグでの経験から、高い目標を達成するということ、格上のチームに勝つということ、最後の1点を取り切るということ、強い集団とは何かということ、そうした様々なものごとを石川は感覚的につかんだじゃないかと思います。

その経験を日本代表にもそのまま還元できた結果、今年の目標全部達成(ネーションズリーグベスト4、アジア選手権優勝、パリ五輪出場権獲得)+α(ネーションズリーグでのブラジルからの勝利とメダル獲得)につながったのではないかと思います。

個人としていい選手とチームを勝たせる選手は似ているようでちょっと違います。そしてそうした真の勝たせる選手になるためには勝った経験が必要不可欠です。今年の石川にはそれがあった。石川が「勝たせるリーダー」になった。そこが去年フランスに勝てなかったけど、今年はブラジルやイタリアに勝ち切れた大きな違いのひとつだったのではないかと思います。

②宮浦健人の成長

今年の龍神NIPPONの躍進を語る上で欠かせないのがこの選手。先日のパリ五輪予選では消化試合となってしまった最終日のアメリカ戦以外あまり出番がなく、主力としての印象は薄いかもしれません。

しかしネーションズリーグでのブラジルからの歴史的勝利と銅メダル獲得は彼の成長なしではなし得ませんでした。

そもそも今年序盤は同じポジションで元々スタメンだった西田の調子がよくありませんでした。スパイクは失点が多く、サーブは入らない。去年の世界選手権フランス戦で無双していた彼とはまったくの別人となってしまっていました。

そんな中で龍神NIPPONの救世主となったのが宮浦健人でした。

今年のチーム初お披露目となった中国との親善試合で途中出場してサービスエースを連発する爆発的な活躍見せます。さらにネーションズリーグのフランス戦でも途中出場するとスパイクを決めまくって勝利の立役者となりました。

そして満を持して初スタメンとなったのがネーションズリーグのブラジル戦。試合序盤こそ硬さが見られましたが、徐々に思い切りのいいプレーが出るようになり、彼の第5セット終盤でのサービスエースが決め手となり対ブラジル戦30年ぶりの勝利に大きく貢献しました。

その後のフルセットとなったアルゼンチン戦、3位決定戦のイタリア戦でも高いパフォーマンスを見せ、見事に日本代表を主要世界大会46年ぶりのメダルに導きました。

宮浦は昨年も日本代表に選ばれてはいましたが、同じポジションの西田と比べると明らかにレベルがひとつ劣る選手でした。それがこの1年で西田と変わらないレベルの選手へと成長を遂げました。

では何が宮浦をそこまで成長させたのでしょうか。

それは間違いなく昨季のポーランドリーグでの経験でしょう。ポーランドリーグはイタリアリーグと同じ世界最高峰のバレーボールリーグのひとつです。昨シーズン、宮浦はポーランドリーグのニサでプレーをしました。

残念ながら同じポジションにレベルの高いポーランドリーグの中でもトップクラスの選手(ベンタラ、現ペルージャ(イタリア)所属)がいたため、スタメンでの出場機会はとても少なかったです。

しかしリリーフサーバーで多く起用されたことで元々武器だったサーブに更に磨きがかかりました。また試合後にリカバリーの必要があまりなかったため、オフの日でもトレーニングに励み、その結果見違えるほどの高さとパワーを手に入れました。そして何より日々の練習でハイレベルで高さのあるチームメイトたちと対峙することで点数の取り方にバリエーションが出ました。

こうした宮浦の成長により、西田が不調でも龍神NIPPONが勝ち続け、結果を残すことができたのだと思います。またこの宮浦の成長が、更に西田を奮い立たせてアジア選手権決勝や、パリ五輪予選での素晴らしいパフォーマンスにつなげることができたのではないかと思っています。

龍使いのタヌキ、フィリップ・ブラン監督

もちろん褒めてます(笑)

やはり近年の龍神NIPPONの躍進をこの方抜きにしては語れないでしょう。ブラン監督が日本チームに入った2017年以降、明らかに年を重ねる度にチームが強くなっていました。そして今年、世界大会銅メダル、世界ランキングもロシアがいないとはいえ4位となり、名実ともに世界の強豪の一員となるところまでチームを引っ張りあげました。

日本のメディアではやはり石川、髙橋藍、西田がその人気も相まって取り上げられガチですが、特に外国チームの監督に日本チームのことを尋ねると「フィリップ(・ブラン)の仕事がすばらしい」という声をよく耳にします。

正直なところ、彼のどういうところがすごいのかというのは、まだまだ上手く言語化できていません。しかし少なくとも彼のコーチングスタイルが今の日本代表にうまくマッチしているのは間違いないでしょう。タイム中に選手にかける言葉もとてもシンプルで的確です。

今年に関して言えば、西田のパフォーマンスを復活させたのは彼の手腕によるところが大きかったでしょう。

西田の調子が悪くても怪我など身体を痛めるなどしていけなれば辛抱強く西田を使い続けました。宮浦があれだけ成長を遂げて好調を維持していたにも関わらずです。ネーションズリーグのファイナルも怪我がなければずっと西田スタートだったんだと思います(実際準決勝のポーランド戦も試合直前までスタートは西田でした)。

たしかに宮浦を多く起用していたらもっと楽に勝てた試合もあったかもしれませんが、それではパリ五輪予選であの爆発する西田を見ることはなかったかもしれませんし、その後Vリーグのシーズンになっても不調から立ち直れていなかったかもしれません。

そう考えると我慢して試合に出して、見事に調子を取り戻させたブラン監督は流石というほかありません。

またパリ五輪予選のエジプト戦こそ試合中に有効な手を打つことができませんでしたが、その後選手同士でミーティングをさせるなどしてリフレッシュを図り、1日空いたチュニジア戦以降はチームを見事に復活させました。そこから選手理解やチームマネジメント力の高さも感じました。

更に今年はアジア大会のためのBチームも海外遠征を組んだり、Aチームとの選手の入れ替えも活発に行って日本代表チーム全体の底上げにも注力しているように感じました。

パリ五輪でのメダル獲得、そして更にその先の龍神NIPPONのことなど、いろんなことを考えながら日本にとって最善のことに取り組んでもらえている感じが伝わります。この計算高いタヌキさん(褒めてます)が、来年どんなチームを、さらに強くなってオリンピックのメダルを狙えるチームを作ってくれるのか本当に楽しみです。

本当にどこまで狙ってやっているのか直接お伺いしたい…(笑)

写真:FIVB、筆者撮影

-コラム, バレーボール
-, , , , , , ,