プロフィール
髙橋藍
ポジション:アウトサイドヒッター
所属クラブ:パドヴァ(イタリア)
生年月日:2001/9/2(21歳)
出身地:京都府京都市
身長:188cm
最高到達点:343cm
利き腕:右
22/23シーズンの成績
チーム
パッラヴォ―ロ・パドヴァ
参加リーグ:スーペルレガ(イタリア1部)
参加チーム:12
レギュラーシーズン:10位
最終順位:7位
個人
()は昨シーズンの数字
試合数:31試合(13)
セット数:105セット(31)
総得点:338点(3)
セット平均:3.22点(0.1)
サーブ
本数:343本(10)
得点:25点(1)
セット当たり:0.24点(0.03)
サーブレシーブ
受数:402本(89)
成功率:50.25%(51.69)
アタック
本数:577本(14)
得点:291点(2)
決定率:50.43%(14.29)
効果率:33.80%(-21.43)
ブロック
得点:22点(0)
セット当たり:0.21点(0)
MVP:3回(0)
シーズンのふりかえり
石川、西田だけじゃない、髙橋藍ここにあり
髙橋はシーズン2年目でしたが、昨シーズンは大学の全日本インカレを終えた12月中旬からの合流で、かつ試合には本来のアウトサイドヒッターとしてでなくリベロとして出場することがほとんどだったため、開幕前からチームに合流できた22/23シーズンは髙橋の本格的なイタリアデビューシーズンとなりました。
サーブレシーブやディグといったディフェンスの面ではもともと定評があったわけですが、オフェンスの面でどれだけ貢献できるかというのが課題でした。
しかしその懸念は開幕戦と同時に吹き飛びます。
シーズン初戦となった強豪モデナ戦からスタメンで出場すると、抜群に安定した守備に加えてアタックでもチーム2位の17得点、アタック決定率57%と大車輪の活躍でチームのジャイアントキリングに大きく貢献し、初戦からMVPを獲得。続く第2戦の強豪チヴィタノーヴァ戦でもチーム最多22得点、アタック決定率54%で大勝利の立役者となって連続でこの試合でもMVPに選ばれました。
そこからは相手チームからマークにあうなどしてアタックの数字が落ちることもありましたが、またシーズン中盤以降はスタメン出場はもちろん、ほぼすべての試合でアタック、レシーブ、サーブともに安定した数字を残してチームの攻守の要として大活躍。今シーズンのパドヴァの目標であったリーグ残留に大きく貢献しました。
シーズンを通したアタック決定率50.43%とサーブレシーブ成功率50.25%という数字はどちらも今季の石川祐希を上回っており、リーグ全体でもレギュラーシーズンのサイドアタッカーランキングで5位に付けました。
これまでイタリアで日本人選手と言えば、計8シーズンプレーしてしっかりお馴染みとなっている石川祐希や昨季1シーズンのみながら衝撃的なインパクトを残した西田有志があげられていましたが、髙橋藍もまたイタリアバレーボール界にその名前を轟かせることになりました。
また元々日本およびアジアに多くのファンを持っていた髙橋でしたが、そのプレーと試合後の丁寧なファン対応で地元イタリアのファンのハートもがっちりと掴んでいました(笑)
髙橋藍の強さ
ここで今シーズンのイタリアでの戦いで見えた髙橋藍の強みを3つ紹介します。
①世界トップレベルの守備力
ほどんどのすべてのプレーにおいて安定した中でもやはり突出していたのはその守備力。
アタックやサーブは試合やセットによって調子の良し悪しがみられたものの、サーブレシーブとディグに関しては世界トップのイタリアリーグでも常に最高のパフォーマンスを発揮していました。
サーブレシーブに関してはレギュラーシーズンの総合的なサーブレシーブランキングでは全体の2位につけるなど高い数字を残していて、それゆえに髙橋に向けてほとんどサーブを打ってくれない試合も多くありました。
またディグでも打った瞬間に決まったと思われた相手の渾身のスパイクを何度もあげたり、飛び込んでの片手レシーブで味方の窮地を救った場面がいくつもありました。
このイタリアリーグでもトップレベルの安定した守備力という絶対的な武器があったからこそ、大崩れすることなく高いレベルで1シーズン戦いぬくことができたのだと思います。
②試合の中での修正力
そして今シーズン目立ったのが試合の中での修正力の高さです。
今シーズンは特に前衛でのアタック時に相手の高いブロックに苦しむ場面が少なくなく、アタック決定率が上がらないこともありました。ただしシーズン序盤に限れば試合を通してアタックの調子が上がらないこともありましたが、シーズン中盤以降は例え1セット目のアタック決定率が低調でも、その後修正してその数字をグッと改善するという試合が目立ちました。
例えば0-2から3-2と逆転勝利したホームでのチステルナ戦では、第1セットのアタック決定率がわずか17%(効果率ではマイナス)だったにも関わらず、2セット目以降の決定率は68%、全体の決定率も58%としてチームの勝利に大きく貢献しました。
この試合序盤は髙橋選手の得意なクロスコースを相手のブロックに塞がれて得点できなかったものの、その後ストレートコースへのスパイクで得点し、そこからクロスコースが空いてきたらクロスに打つという感じで対応して髙橋に有利な状況を自ら作っていくことができていました。
このように対応されたことに対して試合の中でさらに対応してその上を行くというのは、シンプルに見えますが決して簡単なことではありません。
こうした試合の中での修正力の高さも今季の安定した活躍を支えた大きな武器となったことは間違いありません。
③超ポジティブなメンタル
3つ目に紹介するのは彼のその超ポジティブなメンタルです。
これは試合の中での修正力の高さにもつながる部分でもあると思いますが、試合中に困難があってもそれに引きずられることなく、最大のパフォーマンスを発揮するために今すべきことは何かというマインドにすぐ切り替えられる精神的な強さを今シーズンは多々感じさせられました。
本人の以前のインタビューにおいても「壁に当たったときに楽しんで壁を乗り越えて更に強くなれる」「上手くいかないときの方が自分自身は楽しんでやりたい」と困難や課題をとてもポジティブに捉えている旨の発言からもそのメンタル面の強さが伺えます。
こうした何事もポジティブに捉えて自分の力に変えられるメンタルがあったからこそ、難しい状況でも常に安定した成績を残すことができたのではないかと思います。
22/23シーズンのベストバウト
第2節 vsチヴィタノーヴァ 3-2(25-23, 20-25, 25-20, 16-25, 15-12)
開幕2戦目、2連続のジャイアントキリング、2連続髙橋MVPとなった試合。
この試合はチーム最多の22得点、アタック決定率54%、サーブレシーブ成功率77%と大車輪の活躍で、初戦での衝撃から髙橋藍の凄さが確信に変わった試合でした。
しかし正直今シーズンは髙橋は活躍しすぎたので、初戦で初MVPを取ったモデナ戦、ホームで逆転勝ちを飾ったチステルナ戦、サービスエースを量産して3度目のMVPを取ったターラント戦などいい試合が多すぎて正直迷いましたし、今こうして書いているときもまだ迷っています(笑)。
トシキの思い
今シーズンの取材させていただいた日本人選手たちの中で一番驚かされたのが髙橋藍選手でした。
日本代表の試合を見ていてもレシーブはすでに世界トップレベルのものを持っていることはわかっていましたが、アタックとブロックに関してはやはり高さがない分イタリアリーグでどこまで通用するか未知数でした。しかも昨シーズンはリベロを任されていたということで、逆に言えばスパイカーとしては不十分という評価を受けてしまっていたのではないかと思ったりもしていました。
しかし蓋を開けてみると守備はもちろん攻撃においても大車輪の活躍。開幕戦から2戦連続のジャイアントキリング+連続MVPはやはり衝撃でしたし、その後もレギュラーシーズンはチームの攻守の要、本人の言葉を借りれば「チームの軸」となってパドヴァを支えました。
正直彼がイタリアリーグで早くもここまで活躍するとは想像もしていませんでした(ごめんなさい)。これは本当にうれしい誤算でした。
彼の試合は今季8試合現地で取材を行いました。
最初の方は3試合連続で負け試合となってしまいましたが、そんな中でも試合後のインタビューに快く対応してもらうどころかひとつの質問に対してめちゃめちゃ話してくれるので取材する側としてはとても助かりました(笑)。
藍君は宮浦君の次に今シーズンよく話した選手でしたが、話せば話すほどそのコミュ力の高さには驚きましたし、21歳と僕よりも10個くらい離れているのにすべての事象をポジティブに自分のエネルギーに変える思考を持っていて関心させられっぱなしでした。
またシーズンを通して印象に残ったのが、試合中のキリっとした表情。
普段ニコニコと柔らかい表情をしているだけに、集中力に研ぎ澄まされたその緊張感が見ているこっちにも伝わってくるようでした…。
来シーズンにはイタリアのモンツァへ移籍することも発表されました。
モンツァはベスト4も狙える強豪クラブですし、来季はCEVチャレンジカップ(もしかしたらCEVカップになるかも)への参加も決まっているので益々活躍してくれると思います。
しかしその前に今年の代表シーズン。
今の日本代表のアウトサイドヒッターの中では石川祐希と髙橋藍は頭一つ抜けた存在であることは間違いありません。
パドヴァの軸から今度は日本代表の軸として、きっと今年の最大の目標であるパリ五輪の切符を掴んでくれることでしょう。
藍君にはもともと東山高校で春高優勝したときにもインタビューをしていたこともあり、日本代表の中でも注目していた選手のひとりでしたが、今シーズンの度重なる取材を終えてますます応援したい選手になりました。
東京オリピックスタメン、パドヴァでの大活躍と次々と予想を裏切ってくれたラン・タカハシ。
今後も引き続き僕たちに衝撃を与え続けてくれる選手であってくれることを願っています。
写真:LegaPallavoloSerieA, 筆者撮影