パリオリンピックが終了し、男子バレーボールは地元フランスが2連覇を達成して幕を閉じました。
日本代表は今大会世界ランキング2位で優勝候補の一角として臨みましたが、準々決勝であと一歩のところでイタリアに敗れて最終順位7位で今大会を終えました。日本代表を応援していた身として今大会をふりかえると「悔しい」の一言に尽きます。これ以上の言葉は思い浮かびません。
取り切れなかった「あと1点」
何より悔しかったのはやはり準々決勝のイタリア戦、合計で4回もマッチポイントを握りあと1点取れば勝利というチャンスがあったにも関わらず、そのあと1点を決める瞬間を見ることができなかったことでしょう。
特に第3セットに関しては24-21とマッチポイントで3点もリードしている状況からひっくり返されて25-27でセットを落としてしまいました。これまでこういう状況で逆に日本がひっくり返すという試合はあったにせよ、日本がそれをやられる場面はあまりなかったのでかなりの衝撃でした。
その後4セット目もデュースにまで持ち込みますが逆転できず、5セット目は15-14と1度マッチポイントを握ったものの、そこからあと1点を取り切ることができませんでした。
3セット目以降のセット終盤は石川選手によるアタック失点が目立ってしまいました。3セット目24点のときのアタックミス(アウト)、4セット目22点の被ブロックとアタックミス、24点の被ブロック、そして5セット目15点のときの被ブロック。この試合の石川選手のアタック失点は9点でしたが、そのうち5点が3セット目以降のセット終盤に起こった失点でした。
しかし、だからと言って石川選手が悪かったという単純な話ではありません。むしろイタリアがそのように誘導している部分も大きかったです。
石川選手は自分のアタックを相手のブロックに軽く当てて自コートに緩いボールをもらう、いわゆるリバウンドと呼ばれるプレーが得意です。しかしイタリアはその対応策としてブロックの手を直前で引くということ頻繁に行なっていました。ブロックがないままリバウンド狙いの緩いアタックをするとそのまま相手のチャンスボールになってしまうので、石川選手としてもリバウンドが狙いづらく強打を打つしかない状況に追いやられていました。
それでも3セット目中盤まではプール予選での不調がウソのようによくスパイクが決まっていたのですが、そのジャンケンとも言える駆け引きにイタリアの方が徐々に有利になっていった部分があったでしょう。第5セット15点目を決めた石川選手のスパイク時にはブロックで相対するイタリアのロマノ選手はブロックの手を引いていました。ロマノ選手はイタリアで石川選手とチームメイトだったこともあり石川選手のことをよく知る選手だったので、他の選手に比べても石川選手のリバウンドやブロックアウトを警戒してよくブロックの手を引いていたと思います。それを見ていた石川選手が15-15の場面でロマノ選手の方向にスパイクを放ったのですが、その時はロマノ選手がしっかりと手を出していたので、綺麗にシャットアウトされてしまいました。
そういう意味ではこれらのアタックに関しては運がなかったとも言うことができると思います。3セット目終盤のアウトになった石川選手のスパイクもあと数センチ下に打てていたら、もしくはイタリアのブロッカーがあと数センチ高く跳んでくれていたらブロックアウトとなって日本が勝利していたはずです。本当にこういうことは100%狙ってできるものではないので、運の要素は少なからずあったんだろうと思います。
時間が経つにつれて個人的に悔しさを増しているのは、イタリアのジャネッリ選手のサービスエースのシーンです。このノータッチエースで3セット目に24-24と同点に追いつかれました。もちろんあの場面でエースを奪うサーブを打ち込んだジャネッリ選手は素晴らしかったです。しかしエースを取られたのが石川選手とリベロの山本選手のちょうど間であり、レシーバーの間に落ちるサービスエースはVNLで決勝で敗れた後も、パリ五輪直前のポーランドでの親善試合後にも石川選手本人が特に改善したいこととしてあげていたものでした。
あと1点を取りきれずに敗れてしまったことは非常に悔しいですが、「改善したい」と言っていた部分で結果的にミスが出て相手に流れを与えてしまったことも個人的にはとても悔しいポイントでした。
3年間の集大成を見せることができたか
2021年の東京オリンピックでは予選ラウンドでイランとのフルセットの激闘の末に競り勝ち、当時の目標であった準々決勝進出を達成しました。あのイラン戦は、それまでの2017年から続いた中垣内監督時代のベストマッチであり、集大成と言ってもよい試合でした。お互いがベストパフォーマンスで全力を尽くし、その上で日本が勝ち切るという感動的な試合でした。あの試合を見て日本代表のファンになった人も少なくなかったでしょう。
しかしこのパリオリンピックで、そのようなこのブラン監督時代の3年間の集大成と言える試合が見せられたかと言うと、残念ながらそうではなかったと思います。唯一勝ったアルゼンチン戦も、これまでの大会での試合と比べてチームとして特別に良かったかと言われると決してそうではなかったと感じています(ミドルブロッカーや西田選手に関してはそうだったかもしれません)。
もちろん準々決勝のイタリア戦もあのときの全力は尽くしたとは思いますが、もう今の日本代表は「負けたけど良かった、善戦した」と簡単に言える立場ではないと思うので当然集大成と言えないし個人的に悔しいので言いたくもないです。
オリンピックという普段バレーボールを見ない多くの人たちの目に触れる機会で、そうした今の日本代表の集大成と言える試合が見られなかったこともまた非常に悔しいポイントでした。
特にパリオリンピックでのバレーボール男子は日本国内おける注目度が高く、メディア露出もこれまでの比ではありませんでしたし、実際に準々決勝のイタリア戦はパリオリンピックの最高視聴率(23%)を記録しました。そうした場で「僕たちがここまで応援したきた男子代表はこんなに凄いんですよ!こんなに強いんですよ!単なるイケメン集団じゃないんですよ!(ドヤ)」と全国民にアピールできたら良かったのですが、その機会は実現しませんでした。むしろよくバレーボールを知らない人の中には「世界ランキング2位で優勝候補と言われておきながらベスト8かよ」とネガティブに捉えた人も少なくなかったでしょう。悲しいし悔しいです。
ただやはりチームとしての状態がよくなかったのは事実。
石川選手は予選ラウンドを通して調子があまり上がらず本来のプレーができていたとは言えませんし、髙橋藍選手も怪我した足首の状態が万全ではなかったです。あと全体としても硬さが見られました。おそらく優勝候補として挑んだパリ五輪だったので、慣れない環境に加えて国民や周囲からのプレッシャーも計り知れないものがあったのでしょう。いつも楽しそうにプレーする日本代表が影を潜めていたようにも感じました。去年のOQT(パリ五輪出場をかけた大会)序盤の雰囲気にも似たものがありました。
しかしそれでも結果を出さなけれがいけないのがスポーツ。OQTの時にあそこから立て直したように、今回も日本らしいパフォーマンスを戻すことができればよかったのですが、残念ながら結果は出ませんでした。
準々決勝のイタリア戦は、総得点ではイタリアが113点なのに対し日本が114点で上回っていますし、全体の内容としては日本がよかったという声もありますが、やはりプロの勝負は勝たなければ意味はありません。逆に去年のネーションズリーグ3位決定戦では総得点ではイタリアが100点で日本が99点でしたが、日本が勝ちました(そしてこの試合がこの3年間のベストマッチだったと思っています)。
「僕たちの男子代表はこんなもんじゃない、本当はもっとやれるんだ」と言ってしまうとあの場で全力を出した選手たちに失礼なのはわかっていますが、そうした言葉を吐き出さなければやってられないほどに個人的には悔しかったのです。特にこの2年間彼らを近くで見続けてきて、いい状態の彼らを知っているからこそ一層悔しいです。
それでも感動をありがとう、心から応援したいチームになってくれてありがとう
今回のパリ五輪だけを見てみると本当に悔しいとしか言いようのない大会でしたが、ブラン監督体制になってからの3年間をふりかえると、僕の立場からは本当に感謝しかありません。
男子日本代表は、2021年の東京オリンピックの時はベスト8に入るのがやっとのチームでした。
しかし2022年の世界選手権で敗れはしたもののフランスとフルセットの激闘を演じ、さらに藤井選手との別れを乗り越えて挑んだ2023年のネーションズリーグでは予選でのブラジル撃破と46年ぶりの主要国際大会でのメダル獲得となった銅メダル獲得。そして同年にアジア選手権優勝とパリ五輪出場権獲得。そして今年はネーションズリーグで銀メダルと世界ランキング2位到達。
2000年代前半にバレーボールを見始め、2010年代前半に「もう日本男子代表を応援する気にならない」と思って、それでもバレーボールが好きで海外バレーに逃避した僕ですが、男子日本代表にまさかこんな時代が来るなんて願いはしていたものの恥ずかしながら全く予想していませんでした。
東京オリンピック終了時点は次のパリオリンピックには行けるかもとは思っていたものの、まさか優勝候補の一角として参加することになろうとは失礼ながら微塵も思いませんでした。
やっているバレーボールも見ていてワクワクするし楽しい。選手たちのレベルもみんな当然高いし、人としてもそれぞれの選手が素晴らしく魅力的。そして何より強い。こんなに「応援したい」と思わせてくれる男子日本代表は未だかつてありませんでした。
また僕は記者として2年前から選手たちと直接接する機会が増えてその思いがさらに加速しました。
ここまで本当に有言実行でどんどん目標をクリアして行っていたので、パリオリンピックでも最低ベスト4には入るだろうと思い、僕は決勝と3位決定戦のみしかチケットを用意しておらず、残念ながら日本代表のプレーをパリで見る事はできませんでした。オリンピックの魔物を甘く見ていました。非常に後悔しています。
今回2連覇を達成したフランスも、近年で初めて優勝候補として臨んだ2016年のリオ五輪では予選敗退でしたし、ポーランドに関しては2008年の北京五輪から毎回優勝候補の一角として数えられながらパリで勝つまで一度も準々決勝を勝てていませんでした。
こういう事実と照らし合わせると、やはりオリンピックでメダルを掴むには他の大会以上に経験やチームの成熟度の高さが必要なのだと思わされます。
今回の結果は本当に残念だし悔しかったです。
それでも本当にここまでこんなに楽しく応援させてもらえたことには本当に感謝しかありません。本当に男子日本代表の試合を見るのが毎試合楽しみで仕方ありませんでした。本当にありがとうございました。
もう今度の進退について何名かの選手・スタッフは発表があったので来年からはチームがガラッと変わるかもしれないですが、大きな方向性は変わらないと思うので、これからも引き続き応援並びに取材活動をしていきたいと思います。
改めて選手・スタッフの皆さん、本当にお疲れ様でした。そして感動をありがとうございました。
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7月27日(土)午後5時 男子#1 男子#2
8月 3日(土)午後5時 女子#1
8月10日(土)午後5時 女子#2
8月24日(土)午後5時 男子#3
8月31日(土)午後5時 女子#3
9月 7日(土)午後5時 男子#4
9月14日(土)午後5時 女子#4
(TBSテレビリリースより引用)
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写真:Volleyball World