コラム

ポーランド語について

2021年4月14日

僕はポーランドに留学していたことがあるのだが、ポーランドでの留学の話をする際にポーランドでは何語が話されているのかということをよく聞かれる。「何を当たり前のことを聞いているんですか!ポーランドなんだからポーランド語に決まっているじゃないですか!!」とツッコミたくなるのだが、確かにポーランドのことをよく知らない日本人にとっては、ポーランド語という言語が存在していること普段意識されることはないのである。悲しみ。しかしこれが現実である。日本人限らず、ポーランドとポルトガル、またはホランド(オランダ)の区別がよくわかっていない人は世界的にも多いと思う。そこで今回はポーランド共和国の公用語であるポーランド語について紹介したい。

 

ポーランド語の基本情報

言語系統:インド・ヨーロッパ語族スラヴ語派西スラヴ語群

文字:ラテン文字(ポーランド語アルファベット)

母語話者数:約5000万人

 

言語系統はスラヴ語

ポーランド語は、インド・ヨーロッパ語族のスラヴ語の仲間である。スラヴ語の中で一番有名なのはロシア語なので、ポーランド語はロシア語に近い言語であると言える。しかし、お互いの言語で話してもなんとなく意味が通じるほど似ているわけではなく、文字も異なる。なぜなら両者は同じスラブ語であるが、ロシア語が東スラヴ語というグループに入るのに対し、ポーランド語は西スラヴ語というスラヴ語の中でも更に別のグループの言語になるからだ。同じ西スラブ語には、ポーランド語の他にチェコ語やスロバキア語があり、ここまで近づくとなんとなくお互いの言っていることがわかるようになる。しかし似ているからと言って油断していると、同じ発音でも全く意味が違ったりする。ポーランド語で”szukać”(シューカチ)という単語は「探す」という意味であるが、チェコ語で同じ発音の”šukat”は、”fuck”つまり「セックスをする」という意味になってしまうので、チェコでの探し物には特に気をつけよう。

スラヴ語の特徴
①名詞に性がある

これはスラヴ語の特徴というよりは、ドイツ語やフランス語などインド・ヨーロッパ語にみられる特徴であるが、名詞に性(ジェンダー)がある。ポーランド語の名詞の性は、男性名詞、女性名詞、中性名詞の3つで、この名詞の性によって後述する格変化や同じ文章内の動詞や形容詞の変化のルールが変わってくる。この性と人称の組み合わせにより、ポーランド語の動詞の過去形は、13もの変化形がある。これを聞くと英語がとても簡単に思える。

②格変化がある

スラヴ語の名詞には格というものがあり、この格を変化させることにより、日本語の助詞のような働きをする。例えは、「ポーランド人女性は」は、”Polka”(ポルカ)であるが、「ポーランド人を」と言うときにはPolkę(ポルケン)となったりする(厳密には動詞によって目的語の格が決まっているので日本語の助詞に格がそのまま対応するわけではない)。格は、主格、生格、与格、体格、造格、前置格、呼格の7種類がある。この格変化がわかっていないとまともに辞書すら引けない。そもそもこの名詞が変化するという概念自体を受け入れるのに時間がかかる。例えば「福岡」を格変化させると、「フクオカ」「フクオキ」「フクオツェ」「フクオケン」「フクオコン」「フクオツェ」「フクオコ」とあう音にそれぞれなるが、全部意味は「福岡」なのである。クレイジーである。

③動詞が2種類ある

スラヴ語の動詞には、「不完了体動詞」と「完了体動詞」という2種類の動詞が存在する。不完了体動詞は主に継続中の動作や習慣的に繰り返す動作に対して用いられ、完了体動詞は、名前の通りすでに完了した動作やこれからやって終わらせる動作を表現する際に用いる。例えば「買う」という動詞は、「毎朝コーヒーを買う」と言う場合、不完了体の”kupować”を使って”Kupuję kawę każdego ranka”となるが、「昨日本を買った」と言う場合には完了体の”kupić”を用いて、”Kupiłem książkę wczoraj”となる。しかしこうやって例文をあげてみてもそれぞれの単語がすでに語形変化しているので、こうして説明されても意味がわからないだろう。それが正常な反応である。これがスラヴ語であり、これがポーランド語なのだ。

 

文字は英語と同じラテン文字

ポーランド語の表記には、英語と同じラテン文字を使用する。これだけがポーランド語学習者にとっての唯一の救いだ。しかしこれですぐに安心できないのがポーランド語。例文でもすでに書いたが、英語と同じ数の文字だけではポーランド語の音表すことは難しいのでポーランド語独自の文字(ą, ć, ę, ł, ń, ó, ś, ż, ź)が存在する。同じスラヴ語でもロシア語はキリル文字を使用する。これは宗教の違いによるもので、ポーランドやチェコのようなカトリック国ではラテン文字、ロシアやセルビアのような正教(オーソドックス)国ではキリル文字が使用されている。

 

母語話者数は約5000万人

ポーランドの人口は約3800万人でそのほぼ全員がポーランド語を母語としている。またポーランド人は歴史的に移民として国外に暮らす人も多く、その数は約1200万人。したがってポーランド語の母語話者数は約5000万人となる。これはドイツ語話者の半分程度であるが、オランダ語話者のおよそ2倍の人数であり、ポーランド語はヨーロッパ内でも話者の数がトップ10に入るほど母語話者の多い言語なのである。しかし学習難易度が高く、ポーランド国内では英語が比較的よく通じるため、第2言語としてポーランド語を学習している人の数はかなり少ないだろう。しかし、だからこそポーランド人に少しでもポーランド語を話すと大変喜ばれるので、ぜひ今後ポーランドに行く機会があれば挨拶だけでも頑張って伝えてあげてほしい。

 

 

ちなみによく使う挨拶として、「こんにちは」"Dzień dobry"(ジェンドブリ)、「ありがとう」 "Dziękuję"(ジェンクーイェン)の2つがあるが、音が似ていて最初はよく混同してしまうので注意が必要である。

 

このようにポーランド語は学習者泣かせの鬼畜言語のひとつであるが、もし1ミリでも興味があれば、ちょっとでも勉強してもらえると大変嬉しい。

 

Wszystko dobrego! Trzymaj się!! Do widzenia!!!

 

 

 

 

 

 

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