観戦・取材日記

男子世界選手権の決勝戦を見て思ったこと

2022年9月23日

男子世界選手権が終了してうたうたしていたら明日から女子の世界選手権が始まるということで、その前に書いておこうと思い筆を執ります。

今年の世界選手権の決勝戦は、開催国でディフェンディングチャンピオンのポーランドとヨーロッパ選手権王者のイタリアの対戦。

結果はイタリアが3-1(22-25、25-21、25-18、25-20)で勝利し、1998年以来の6大会ぶり4回目の優勝を果しました。

会場は約11000人の熱狂的なポーランドファンで埋め尽くされイタリアは完全アウェーな状態でしたが、スタメン平均年齢24.86歳のヤングイタリアチームはそれにもろともせず素晴らしいパフォーマンスを見せてくれました。

そんな決勝戦を見て思ったこと、感じたことをザっと書いていきたいと思います。

流石のジャネッリ

決勝戦でのイタリアのセッター、ジャネッリのパフォーマンスは圧巻でした。

現在のイタリアチームの特徴ともいえる高い得点力を持つサイドの3人をそれぞれ十分に活かしつつ、要所でクイックもしっかり織り交ぜる憎たらしいトス回しが光っていました。

またこの試合は自ら得点をする場面も多く、サーブで2点、スパイクでもなんと5点の計7得点。サーブは第2セット終盤の4連続ブレイクでの逆転劇を演出しましたし、スパイクはミドルブロッカーよりも多く打って得点しているから驚きます。セッターがスパイク10本は打ちすぎ(笑)。でもそれによりポーランドブロッカーはだいぶ苦しめられていたと思います。

ジャネッリはまだ26歳とは言え18歳で代表のスタメンとなり、クラブチームも含めて数々のタイトルを手にしてきたことを考えると経験値はもうベテラン以上。一方ポーランドのセッターだったヤヌシュは、年齢こそジャンネッリより2歳年上ですが、A代表のスタメンセッターは今年からですし、クラブでも強豪チームのスタートセッターとなったのは昨シーズンからでした。

やはり大舞台になればなるほどセッターの力量の差というものが出るのだなと感じざるを得ませんでした。

ラヴィアのパフォーマンスに脱帽

ジャンネッリも凄かったけどアウトサイドヒッターのラヴィアも凄かった。

これまではどちらかというと対角のミケレットの陰に隠れてあまり目立っていなかったですが、今大会は大会を通してずっと好調をキープしていました。決勝戦でも序盤いまいち調子の上がらないミケレットやオポジットのロマノに対してラヴィアはコンスタントに得点を決め、ハイボールを託される場面も多くありました。そしてそのハイボールも決めてくれるんですよね。

また攻撃だけでなく守備でも抜群の安定感を見せてくれていました。ポーランドはサーブで思ったようにこの男を崩してプレッシャーをかけることができなかったのも敗因のひとつだったでしょう。

これだけのパフォーマンスを見せてくれたのだから当然個人賞に入ってくると思っていたら何もない。そりゃダメですよFIVBさん。MVPラヴィアにくれてやってよかったんじゃないですか?

どうしたクレク

そんな好調なジャネッリやラヴィアとは対照的に苦しんでいたのがポーランドのキャプテン、クレク。

この試合ではいつものスコアリングマシーンの姿は影を潜め、スパイクが決まらない。決まらないどころか失点にしてしまう場面が多くとても苦しんでいました。アタックは7/22、失点6で効果率4.55%…。こんなクレクは見たくなかった。2枚替え以外でベンチに下がったのもこの試合が初めてだったと思います。

今年からクビアクから代表キャプテンを引き継いだことに加え、自国開催、3連覇への期待など多く重圧、プレッシャーがあったと思います。これらが直接的な原因かどうかは定かではありませんが、少なからず影響は与えていたことでしょう。

でも最後第4セットで見せた意地のサービスエースは痺れました。

シリフカをもっと見たかった

僕が今のポーランド代表チームで一番推している選手がシリフカ。

サウスポーOHで攻守のバランスが優れているところがストロングポイントなんですが、今大会を通してサーブレシーブに非常に苦しんでいました。しかし決勝戦では失点もあったもののよく踏ん張っていた印象を受けました。

第1セットを取り、続く第2セット19-18でサーブが回ってきたところでシリフカはフォルナルに代えられてベンチに下がります。次の相手サーバージャネッリには序盤でエースを取られていたのでそれも警戒しての交代だったと思いますが、その後ジャネッリは狙いをセメニウクに切り替えてエースを奪って一気に4連続ブレイクに成功。このセットを決定づけます。

たらればですけど、もしあそこでそのままシリフカが出続けていればジャネッリのサーブの狙いも変わって逆転を許さずに第2セットも取れたかも。また第4セットもフォルナルではなくシリフカで行っていれば何か変わっていたかも。シリフカは優れたキャプテンシ―の持ち主でもあるので、クレク不在のコートを落ち着かせることもできたのではないかなとも思ったり。

彼はもっとやれたと思います。もっと見たかったです。

トレント対ザクサ?

今回の決勝は、ヨーロッパチャンピオンズリーグでここ2年連続決勝で当たっているトレント(イタリア)対ザクサ(ポーランド)を想起させるものでもありました。

実際イタリアコートにはトレントとしてザクサと戦った選手が3人(ジャネッリ、ミケレット、ラヴィア)いましたし、ポーランドコートにはなんと6人(クレク以外)がザクサ、元ザクサメンバーでした。クレクに代わってカチュマレクが入るとポーランドはもうザクサでした(笑)。

チャンピオンズリーグは2年連続でザクサが優勝しています。その2回ともコートに立っていたのは、イタリアではミケレット、ポーランドだとセメニウク、シリフカ、カチュマレクの3人です。

ミケレットからするとチャンピオンズリーグの2年越しの借りをここで返したような感じなのではと勝手に思ったりしていました。

試合が決まったプレー

試合内容としては1, 2セット目は終盤までシーソーゲームで、20点前後にビッグサーブからの連続ブレイクを決めたチームがセットを取るような展開(1セット目はビエニエク、2セット目はジャネッリ)でしたが、3, 4セット目は中盤から一気にイタリアの流れになってそのままイタリアが取り切るという流れでポーランドに勝利しました。

特に個人的に勝負を決めたと思ったプレーは第4セットにありました。イタリアが7-6でリードし、サーバーがイタリアMBルッソの場面。OPカチュマレクのレフトからのスパイクをそのルッソが片手で拾い、直接ポーランドコートにボールが返ってくるんですが、カチュマレクとリベロのザトルスキがお見合いみたいな状態になってコートに落ちちゃったんですね。

確かにやや直線的な球で判断しにくいボールではあったのですが、このレベルだと落とすようなボールではまったくありませんでした。しかしそれでも一瞬の連携ミスで失点になった。このワンプレーのポーランドチームへのダメージというのはとても大きかったと思います。事実イタリアはここから一気に10-6とリードを広げ、ポーランドはその差を最後まで詰めることができずに敗れました。

そう考えるとこのルッソが試合を決めたと言っても過言ではありませんし、2セット目途中から不調のガラッシに代えてルッソを投入したことはデジョルジ監督のこの試合一番のファインプレーだったかもしれません。

そういえば日本対フランスの試合においても、最後の西田のスパイクを交代で入ったMBジュフォアが片手で上げて試合を決めました。たった1ローテ、しかもサーブ時の1ローテだけですが、ミドルブロッカーのディグで勝負が決まることもあるんですよね。

ポーランドファン

やっぱりポーランドファンは凄かったです。

満席の観客席は99%ポーランド国旗の色である赤と白で埋め尽くされ、ほとんどの観客がポーランドのマフラータオルを持ち、被り物をしたり頬に国旗のペイントを付けている人たちも珍しくありません。

整列後は恒例のポーランド国歌アカペラ大合唱に始まり、試合開始後はポーランドチームには大声援(サーブのときには各選手の名前でコール)、イタリアのサーブ時には最大のブーイングを送る。

ポーランドチームが得点するたびにお祭りのごとく盛り上がり、イタリアが得点すると葬式のように静まりかえる。激しく上下する空気感。

たまらん。

やはりここがバレーボール界最高の場所であることを改めて感じられる幸せなひと時でした。

第4セット終盤、イタリアの勝利がほとんど決まった場面でのポーランドファンの表情をみるのは辛かったけど、負けたポーランドチームに対しても「Dziękujemy!(ありがとう)」の大合唱が起きたときにはファンの温かさに感動しました。

おわりに

自分もポーランド国歌を暗唱できるほどのポーランドファンですので、ポーランドチームが負けてしまったことは本当に悔しいの一言に尽きますが、優勝したイタリアチームは本当に素晴らしかったので何も文句はありません!(笑)

でも来年の欧州選手権、もしくはパリオリンピックでぜひリベンジを果たしてもらいたい。そして次は表彰式で僕も一緒にマズルカ・ドンブロンフスキエゴ(ポーランド国歌)を歌いたいです!!

皆さんはどんな印象でしたか?よかったらコメントお待ちしてます!!

写真:筆者撮影、FIVB

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