試合レポート

日本男子バレーブラジル戦レビュー。進化したからこそ見えてきたトップチームとの差。

2021年8月5日

やっと試合をフルで見ることができたので、その感想を綴っていきたいと思います。総じて、試合後のインタビューで石川選手が述べていたように、日本チームは自分たちのできることをすべてコートに出せた素晴らしい試合でした。日本の意図がプレーからよく見えましたし、実際にそれがうまく機能していた場面も多くありました。しかし、王者ブラジルが日本の全力のその上を行っていました。そうした試合の中で、今の日本の課題も見えてきたと思います。

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意図の見えたサーブ戦術

まず日本がある程度うまくいっていた部分としてあげられるのがサーブ戦術です。日本はブラジルのレセプションが苦手なアウトサイドヒッターであるレアルにサーブを徹底して集めていました。コントロール系のサーブ打つ選手は特にそれが徹底されていたと思います。サービスエースこそ少なかったですが、レアルがAパスを返す機会というのはとても少なく、ブラジルチームにストレスを与え続けられていたのではないかと思います。しかしブラジルはBパスからでもクイックなど多彩な攻撃を使ってきましたし、ハイセットの決定力もとても高く、日本の戦術の上を行かれていました。トップチームと勝負するには、今後日本のサーブは選手を狙ったうえで、更に前に落として膝をつかせて取らせるようにするとかそうした細かいコントールサーブ、あるいは威力のあるサーブを打つなどサーブのクオリティを更に高める必要があるように感じました。

鉄壁のサーブレシーブ

次に日本はサーブレシーブが本当に素晴らしかった。ダイレクトで相手コートに返ったボールは1, 2本あったものの、日本は記録上ブラジルのサービスエースを0本に抑えることに成功しました。ブラジルのサービスエースが0本の試合など僕の記憶上ありません。少なくとも今年のネーションズリーグの16試合とオリンピックの4試合でブラジルにサービスエースが出なかった試合はひとつもありませんでした。その要因としてはまず大前提として、石川、髙橋、山本のサーブレシーブを担う3選手のこの能力が非常に高いことが上げられますが、ネーションズリーグで見られたレシーバーの間にサーブを打たれてエースを取られることもなくかったので、このローテーションでは誰がどのボールを取るかといった役割分担がとてもうまく行われているのだなと感じました。また相手の強力なジャンプサーブに対しては、Aパスで返そうとせず積極的にアタックライン付近に高く返球していました。これによりサーブレシーブを相手コートに直接返してしまうミスを防いで攻撃機会の喪失を回避できていました。今の日本は海外のトップチーム同様にアタックライン付近からでもクイックなどのコンビネーションが組み立てられるような攻撃システムになっているので、アタックライン付近への返球でもセッターがジャンプセットできるくらいの高さがあれば問題ないのです。日本のサーブレシーブは間違いなく世界トップレベルに来ています。

ミドルブロッカーの火力不足

また日本のミドルは相手のクイックに対してしつこくマークしてブロックに跳ぶこともできていました。ただし、相手もそれをわかっていて足の長いスパイクを打ったり、コース幅で勝負したりしてなかなか相手のミドルブロッカーやセッターにプレッシャーをかけることができていなかったのは今後の課題と言えそうです。しかしミドルに関して言えば、ブロックよりもスパイクにより課題が見えたように思います。1セット目、セッター関田選手はミドルの小野寺選手に3本、山内選手1本それぞれトスを供給しましたが、ブラジルのミドルがしっかりタッチをかけてきたこともあり、クイックでのポイントをあげることができませんでした。このことで2セット目以降日本のサイドへのマークが厳しくなり、西田選手と髙橋選手のスパイク決定率の低下を引き起こすことになりました。2セット目以降はマークが薄くなったこともありようやく決まりはじめましたが、ディグでも対応されていたりとあまりブラジルブロッカーにストレスを与えていないように感じられました。イタリア戦の李選手くらいのインパクトのある攻撃面での活躍が毎試合できるようにならないと相手のミドルもなかなか警戒してくれません。日本のミドルブロッカーの攻撃力アップはチームの更なる進化には欠かせない要素だと思います。

西田のサーブ

あと惜しかったのが西田選手のサーブ。1, 2セット序盤でそれぞれ1本ずつサービスエースを決めたものの試合全体としてはミス、特にネットにかかるミスが目立ちました。エースをねらいに行くジャンプサーブなので多少のミスは仕方ないのですが、それにしてもこの日はミスが多かったですし、ネットのミスはインアウトの判断もしなくていいので相手からしても一番楽です。やはりブロックが低い分日本はよりサーブで勝負をしかけていく必要がありますし、その中でも西田選手のサーブは世界でも恐れられているがゆえに期待もとても高いプレーです。彼のサーブに当たりが出てくれればという場面が何度もありましたが、このブラジル戦ではその当たりを見ることはありませんでした。このブラジル戦に限らず、今大会の西田選手のサーブはベストパフォーマンスではなかったですね。最後2試合の石川選手のサーブが凄かったので余計にそう感じてしまいます。イラン戦でも5セットやって2本だけでしたし、スパイクは好調だっただけに非常に残念でした。まだまだ日本がトップレベルのチームに勝つためには彼のサーブに頼るところは大きいです。西田選手は、第2セットのブラジルのルカレッリのようにサーブで一気に流れを変える活躍ができる選手です。ぜひまたプレッシャーのかかる場面で相手レシーバーを崩し、サービスエースを放つ彼の姿を見てみたいです。

総評

といろいろ書きましたが、悔しい敗戦ではあったものの、ポジティブにとらえていい試合内容だったと思います。その中でもやはり激熱だったフェイクセット祭り3セット最後のサービスエースなど石川祐希という男の存在感際立つ試合でもありました。しかし総じてチームとしてはうまくいっていたが、個人の能力がフィジカルとメンタル共にまだ足りない部分があったという印象でした。その点ブラジルチームのひとりひとりの集中力とパフォーマンスは素晴らしかった。本当にそこの差だったと思います。すなわち日本チームはまだまだ伸びしろがある、もっとチームとして成長できる、強くなれる可能性を秘めている、方向性は間違ってないから更にこのまま前に進むだけ。こんな日本チームになってくれたことを本当に誇りに思います。3年後も楽しみですね。

P.S.

試合後、元モデナのチームメイトでブラジルキャプテンのブルーノが石川に声をかけていたようですね。やっぱりブルーノは優しい人なんだなと胸がアツくなりました。

 

写真:FIVB

 

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