コラム

石川祐希の22/23クラブシーズンをふりかえる

2023年6月4日

プロフィール

石川祐希

ポジション:アウトサイドヒッター
生年月日:1995/12/11(27歳)
出身地:愛知県岡崎市
身長:192cm
最高到達点:351cm
利き腕:右

22/23シーズンの成績

チーム

パワーバレー・ミラノ

参加リーグ:スーペルレガ(イタリア1部)
参加チーム:12

レギュラーシーズン:8位(5)
最終順位:4位(9)

コッパイタリア:3位(3)

※()は昨シーズンの数字

個人

試合数:37試合(32)
セット数:131セット(124)
総得点:486点(370)
セット平均:3.71点(2.98)

サーブ
本数:497本(463)
エース数:37本(24)
セット当たり:0.28本(0.19)

サーブレシーブ
受数:697本(776)
成功率:46.77%(50.64)

アタック
本数:895本(772)
得点:419点(319)
決定率:46.82%(41.32)
効果率:32.51%(25.13)

ブロック
得点:30点(27)
セット当たり:0.23点(0.22)

MVP:4回

シーズンのふりかえり

アグレッシブ石川

今シーズンの石川は非常にアグレッシブ(攻撃的)でした。

昨シーズンは対角のジェスキー(アメリカ)が攻撃、石川が守備みたいにアウトサイドヒッターの中で役割が分かれていた印象でしたが、今シーズンは攻撃的なメルガレホが対角でもお構いなしに石川自身もガンガントスを要求してガンガン攻めている印象でした。

このことは数字にも表れていて、昨シーズンと比べてアタック決定率が5%近く上昇したほか、1セット当たりのアタック得点も2.57点から3.20点に増えています。さらにセット当たりのサービスエース数も0.19本から0.28本に増えているなど、アタックとサーブ両方において昨シーズンと比べてより得点を取ったシーズンとなりました。

チームのベストスコアラーになった試合も昨シーズンと比べると格段に増えたと思います。それほど今シーズンの石川は攻めに攻めていました。ときにギアを上げすぎて見ているこっちがなんだか心配になるほどに(実際今シーズンは試合の途中で脚をつるシーンが少なくなかったです)。

この背景にはおそらく昨年の世界選手権のフランス戦での経験があったのではないかと思います。

第5セット、先にマッチポイントを握ってからあと1点が取れずに逆転で敗れました。

その後のホームでのヴェローナ戦やピアチェンツァ戦でも似たようなシチュエーションで敗戦となったりもして、そのピアチェンツァ戦後のインタビューでも「最後まで、5セット目だったら15点、4セット目までだったら25点まで取り切る力がもっと必要だなと思います」と語っていたところから、点数を取り切る力ということが石川の今シーズンのひとつのテーマになっていたと思います。

特に今シーズンは勝負所やセット終盤での集中力が凄まじく、ここぞという場面でスパイクやサーブで得点を決めるシーンが目立ちました。またセッターのポッロからの信頼も厚く、1点決めてほしい場面では前衛後衛に関わらず石川にボールを託される場面が多かったです。ペルージャに勝ってベスト4を決めたプレーオフ準々決勝第5戦でも、マッチポイントを決めたのはポッロからボールを託された石川のスパイクでした。

チームリーダーとしてミラノを初のリーグベスト4へ導く

マッチポイントを決めただけでなく、そもそもミラノがクラブ史上初のリーグベスト4という快挙を達成した裏には石川祐希の功績がとても大きかったと思います。

今シーズンのミラノは、特にレギュラーラウンドでメンバーが怪我などで試合に出られてないことが多く、必要なポジションの人数が足りずに変則的なフォーメーションで挑んだ試合もいくつかありました。

その中でもチームキャプテンであるピアノ(イタリア)がコートに立てない試合が多く、その場合には石川がゲームキャプテンとしての役割を担っていました。ピアノがベンチにも入れなかった時にはキャプテンマークをつけたユニフォームで試合に臨むこともありました。

このようにプレーでの攻守の要としての役割はもちろん、チームのまとめ役、精神的な支柱としての役割を今季はずっと担ってきていました。

その姿は試合中にも表れていて、コート内外での選手との頻繁なコミュニケーションはもちろん、自分のチームが点数を決めたときには思いっきり喜びを表現してチームを盛り上げていました。自分で点数を決めたときもそうですが、それ以上に他のチームメイトが点数を決めたときの方がより喜んでいました。

しかしそのように石川を中心に回っていたチームだけに、石川がいなくなると厳しい状況になることも少なくありませんでした。特にコッパイタリア準決勝では、石川が脚の痛みでコートを離れた途端にチームが回らなくなり、石川本人も「僕がいちおうチームをまとめたりとかやっているからこそいなくなってしまった途端ポロっと崩れてしまった」と試合後に語っていました。

ただそうした困難を乗り越えレギュラーシーズン8位でギリギリプレーオフに進出すると、その後レギュラーシーズン無敗のペルージャに対して勇敢に立ち向かい3勝をあげて世紀のジャイアントキリングでベスト4に進出。その後の準決勝でも前回王者のチヴィタノーヴァを後1歩のところまで追い込みました。

プレーオフを通して得点面に関しては対角のメルガレホ(キューバ)が目立っていましたが、チームの中心となっていたのは間違いなく石川祐希でしたし、彼のイズムが、勝利への執念がチーム全員に伝播しての大勝利だったように感じました。

ミラノで新しい歴史を創ると語っていた石川。

1年目はCEVチャレンジカップ優勝、2年目はコッパイタリア準決勝進出、そして3年目となった今シーズンはリーグで準決勝進出と、その言葉通り毎年ミラノに新しい歴史を刻んでいます。

準決勝でチヴィタノーヴァに僅差で敗れてしまったあとの3位決定戦では苦手とするピアチェンツァにウソのようにボロ負けしてしまいましたが、試合後に来シーズンの目標を尋ねると「ファイナルに行ってやっぱり勝ちたいです。準決勝には行ったので、その先を目指すしかないです。準決勝に行ったらその後はもうどこが勝つかわからないので、そのファイナル行くことももちろん目標にはなりますけど、それ以上の目標立てておかないと、なかなか取るのは難しいなと思ってるので、このチームでやっぱりトップ狙うことが来シーズンの目標になります」と力強く語ってくれました。

彼の言うことならばきっと実現してくれそうと思ってしまうのは、きっと僕だけではないはず。

22/23シーズンのベストバウト

プレーオフ準々決勝第4戦 vsペルージャ 3-2(25-15, 19-25, 19-25, 28-26, 15-13)

現地で息を飲んだ試合。

1セット目を大量リードで取ったかと思ったら、2, 3セット目を危なげなく奪われましたが、4セット目終盤に石川が覚醒してデュースの末に奪取してタイブレークへ。

第5セットも序盤にレオン(ポーランド)の3連続サービスエースで絶望的な状況になるも石川とメルガレホで追いつき、また今度は終盤に石川が負傷してコートを去るもポッロのサービスエースとミドル陣の活躍で見事に勝ち切りました。

MVPはメルガレホでしたけど、第4セット後半から負傷退場するまで石川の気迫が凄すぎてビシビシと伝わってきましたし、何より第5セットの展開がドラマチックすぎてこれまで見てきた試合の中でも結果的もエンタメ的にも屈指の好ゲームとなりました。

トシキの思い

今季ミラノの試合は現地で9回取材させていただきました。

昨年末のコッパイタリア準々決勝のチヴィタノーヴァ戦まで、今シーズン以前に見た試合も含めて現地で見た石川選手の試合はすべて負け試合でなんだか申し訳なく思っていました(笑)。

しかしコッパイタリア準々決勝に勝ったあとは、ペルージャとの激闘の第4戦、そして準決勝進出を決め目の前で石川祐希歓喜の舞を見た第5戦と歴史的勝利の瞬間にも立ち会うことができました。

石川選手にもほぼ毎試合インタビューをしたわけですが、なんか毎回緊張してしまい終わったあとに毎回「あーすればよかったこーすればよかった」と考えっぱなしでした。めちゃくちゃ喋ってくれる髙橋選手に比べて石川選手は淡々と答えてくれるタイプだったので、そんな彼から言葉を引き出すのは挑戦的でした(笑)。

しかし逆にコートの上ではクールな髙橋選手と違いアツアツだった石川選手。自身が決めたときだけでなく、むしろそれ以上に味方の得点に思いっきり喜び、調子が上がらない選手がいたら鼓舞する。そんな情熱的なリーダーの姿がそこにありました。

プレーも一級品で、特にアタックの引き出しの多さにはいつもほれぼれし、「石川先生!」と心の中で何度声を上げたかわかりません(笑)。

しかし、それ以上に実際の彼のプレーからは強い「引力」のようなものを感じます。彼のプレーは「俺について来い」と言わんばかりに周りを引っ張り上げ、勇気や希望を与えてくれます。

これが僕が現地で感じた彼の最大の魅力であり、多くの人々をも惹きつける力なのではないかと思います。

来季のミラノにはカジースキの加入が発表され、夢の石川-カジースキ対角の実現にワクワクが止まりませんが、まずは今年の日本代表。

先日のネーションズリーグ前の会見では「ベスト4」という目標を掲げてくれていました。ミラノに続き、日本代表もきっと彼ならベスト4まで引っ張ってくれることでしょう。そしてその先のパリ五輪もきっと大丈夫なはず。

「皆さんの期待に応えるっていうスタンスではないですけど、 それを上回る活躍だったり結果だったりそういうものを出したい」

ただただ周囲を気にせずに、あなたの見たい景色をみんなに見せてください。

写真:LegaPallavoloSerieA, 筆者撮影

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